井さん
父親と二人で漁業を営む乙部の漁師、「第三かもめ丸」の井輝光さん。現在、35歳。高校卒業以来、17年にわたって漁業に携わっている。外見には貫禄があるが、この辺の漁師の仲間の中では一番若い」。だから「みんなといる時はちっちゃくなってるんだ」と豪快に笑う。
井さんは2年前にソナーを導入した。
6月、道内でイカ釣が解禁され、桧山沿岸に漁場が形成される時期になると、午後1時過ぎに乙部港を出港する。そして夕方から針入れを開始するが、日が暮れても集魚灯は点けない。
「第三かもめ丸」
「ソナーを付ける前は、日暮れとともに電気(集魚灯)を点けなくてはならなかった。今は夜の8時、9時くらいまでは電気を点けないで獲る『かんどり』をやる。ソナーで魚群を探し、潮流を読んで針を垂らす。9時以降、電気でやることもあるが、点灯時間は短くなったし、使用する燃油はかなり減った」。
井さんによると、集魚灯を点灯すると、エンジンの回転数は約1800回転まで上昇するが、消灯すると900回転前後にまで落ちる。
これにより燃油使用量は、「ソナーをつける前は、漁場で10時間くらい操業して、1日ドラム缶約3本半分、700リットル程度だったが、かんどり主体に切り替えてからは、300リットルくらい。半分以下になった」という。
もちろん、かんどりで漁獲できない時は、集魚灯を点ける。ただ、燃油代が高いので、なるべくかんどりをするようにしている。
「電気を点けてしまうと、漁獲が多くても油代がかかるし、発泡箱代も上がっているから利益なんて出ない。でもかんどりなら漁獲が少なくても、コストも低いので、利益がとれる。うちは人を雇っているわけではなく、親父と二人でやっているから、それなりに食えるだけの儲けがあればいいんだ」。
ただ、かんどりは、ソナーに常に注意を払い、魚群の反応を追っていくため、「気疲れも多い」と漏らす。「集魚灯なら、電気を点けて魚群が来なければ諦めるしかないけど、かんどりの場合は自分の努力次第、どこまで頑張れるかにかかってくる。だから、陸に帰ってくるとけっこうぐったりする。イカが獲れてなくてもね」と微笑む。
塔載したソナー。太平洋側で「厚い」魚群反応を示す
7月になると、井さんは太平洋側へと移動を始める。恵山、室蘭、様似、釧路と拠点を移しつつ、イカの漁場を追って東へ進んでいく。
道太平洋側では、釧路・十勝、根室、日高(一部除く)海域で一定期間、夜間のイカ釣操業が禁止されており、昼間の操業が中心。「当然、ソナーが必需品になる」。
ソナーに映る魚群の反応は、日本海側よりも、太平洋側の方が強いという。「イカの塊が『ぼったぼった』出る。しかも、導入したソナーは、魚群の密度が濃いか薄いかまでわかるから、濃い群れから選んで釣っていける」。ソナーの威力が最大限に発揮される場所といえる。
井さんも数年前までは、今ほど燃油価格を気にすることはなかった。「リットル40円前後のときは、電気を点けて1日ドラム缶3本炊いても、4本炊いても、イカが獲れれば痛くはなかった。しかし、50円、60円と値上がりし、70円を超えると、電気を使うのは厳しくなる。漁師の経営は一度転ぶと立ち直れなくなるから、燃油代が高い中で、効率よく仕事をしていかなくちゃならない」。
そうした意味で、ソナーを活用したかんどりは「他船でも今後ますます増えてくる、将来型の漁法だ」と評価する。
「無理をせず、その時々の状況や環境に柔軟に対応していくこと」が、仕事におけるポリシー。その言葉を実践するように、燃油高の環境下、井さんは省エネ型の新たな漁法に挑んでいる。
(つづく)