品質・価格ともに、あらゆる水産物の頂点に立つのが「大間マグロ」である。
津軽海峡の近海で手釣りされるクロマグロは、その希少価値に加え、近海物ならではの高い鮮度と美味しさによって、市場での評価は群を抜いて高い。東京・築地市場では、外国産などの冷凍マグロがキロ当たり6000~7000前後であるのに対し、大間のマグロは万単位の評価となるのが普通だ。それだけに大間のマグロ漁師の生産意欲は極めて高く、舶用機器など新たな技術の導入についても常に貪欲だ。
ここ数年で一気に普及した「ソナー」も、そうした前向きな漁師たちの意識の表れなのだろう。
「ソナーがあれば魚群の動きが一目瞭然だからね。現在の普及率は半分くらいだけど、近い将来ほぼ全ての漁船に搭載されると思うよ」
地元の船舶関係者はそう指摘する。
10代の頃から漁をはじめ、40年以上のキャリアを持つ大間のマグロ漁師山本秀勝さん(53歳)も、最近ソナーを手に入れた漁師の一人だ。山本さんがソナーを購入したのは昨年のこと。選んだのは古野電気のカラー液晶サーチライトソナー「CH250」である。小型船に適したコンパクトな上下装置タイプで、魚群分布・密集度・瀬付き状況を、全周360度と断面併記によって探知する機能を持つ。
山本さんはそれまでの3年間、市場評価の高い100キロクラスのマグロを釣り上げることが出来ずにいた。
「周りの漁船が次々とソナーを搭載し始めて漁獲量をあげていた。それに遅れをとった結果」と山本さんは話す。価格はモニター交換などのオプション込みで約200万円。ソナーのなかでは最も買い求めやすい機種だが、3年間大物と呼べる獲物が無かったものにとっては、決して安い買い物ではなかった。
「苦渋の選択だったけど、借金をして購入したんだ」
その借金も、父が保証人となってようやく工面したものだった。それでも山本さんの表情は明るい。
「何故って、ソナーはそれに見合う漁獲量が期待できるからさ」
しかし、待望のソナーを搭載して臨んだ昨シーズンの前半は、コツをつかむまで苦労の連続だったという。
「ソナーを早くから搭載している漁師が言うんだ。ソナーを付けたからって、すぐに釣れるもんじゃないって。心の中では反発したけど、確かにその通りだった。ソナーはしっかりと魚群をとらえている。なのに釣れない。そんなのが1ヶ月程続いたね」
その時、山本さんは1週間、海の上でソナーをただながめて考えたという。そしてある結論に達した。
「ソナーは魚群の位置を映すが、マグロの移動速度はそれを凌ぐほどの勢いだ。その群れにタイミング良く餌を投げ入れるには、魚群の移動経路を先読みする必要がある。そこで、餌がマグロの深度まで到達する時間を加味し、漁船を魚群の進行方向500m先に置き投餌するのはどうか?」
早速この方法を試したところ、マグロの“あたり”が徐々に増えはじめたという。
「それで自分の考えが正しかったことが分かった。これでソナーを使いこなすコツをつかんだかな」
ソナーを初めて搭載したこのシーズン、山本さんは4年ぶりに100キロクラスの大物を一気に5本、釣り上げることができた。使い始めた当初、借金までして購入しその効果についても半信半疑だったソナーへの気持ちは、大きな見返りを得たことで、絶対的な信頼へと変わった。
山本さんは「今度のシーズンでは、二桁の水揚げが目標。ソナーの使いこなしにも慣れたしぜひ達成したい」と意気込む。漁船名の「第七喜代丸」(約4トン)は、漁師だった父が“未来永劫代々に渡って喜びと幸多き”ことへの願いをこめて命名したもの。
「父から受け継いだ船名通り、多くの喜びを家族に与える事が出来れば、それに勝る喜びはない。特にソナーを購入する時、自分を支えてくれた父には心配をかけたから」
そう言ってソナーを見つめながら、「大丈夫、こいつ(ソナー)がまた、獲物へと導いてくれる」と、山本さんは確信に満ちた表情を浮かべて呟いた。
日刊水産経済新聞 2006年5月30日掲載
SONAR Technology for Fishermen
3年間、水揚げから見放されてきた山本氏は、昨年サーチライトソナー(PPIソナー)CH-250を導入。他船の動きを見てから仕掛けを投入するというような、従来の受け身的なものから一転して、ソナーを中心とした積極的な釣りへと変わったという。
ソナーがないときは、魚探しか水中情報は得られなかったが、魚探に何の反応もない状況でも、ソナーは遠方にいる魚群をしっかりと映し出してくれる。「これだけでも、戦意が高まるね」と山本氏。
ソナーモニターには、15型高解像度
ディスプレイMU-151Cを搭載
左舷前方310度あたりに現れているのがマグロの反応。マグロは比較的シャープ感のある反応をしており、横方向へ広がった反応をしているのが特徴。