「物流DXに対し、本気になっている出展者、そして来場者が増えてきた」、国際物流総合展2024を取材した筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)の感想です。
DXという言葉は、その本質的な定義や目標が軽視され、デジタル化や改善活動のためのプロパガンダとしてこすられまくり、摩耗してしまった感があります。しかし、先日開催された国際物流総合展2024において筆者が感じたのは、こういった幻滅期を乗り越えて、いよいよ物流DXがホンモノへと進化していく兆しでした。
国際物流総合展2024で目立っていたのは、なんと言っても物流ロボットでした。
ピッキングロボット、搬送ロボット(AGV、AMR)などに加え、注目を集めていた自動フォークリフト(Automated Guided Forklift、AGF)については、展示も多く、足を止めて見学している来場者も多く見受けられました。
ただし、AGFを扱っているブースでも、すべてが同じように来場者が集まっていたわけではありません。来場者が群がるブースと、あまり注目が集まらず来場者にスルーされがちなブースと、二極化が進んでいました。
スルーされているブースをよく見ると、AGFがサンプルの貨物を右へ左へと移送させ、積み卸しをしているデモンストレーションばかり行っていて、展示内容が代わり映えしません。
対して、来場者が群がっているブースは、実際にAGFが使用されるであろうシチュエーションを想定し、AGFに対して皆さんが感じるであろう欠点をきちんとフォローしていました。
AGFはフォークリフト・オペレーター(つまり人)と同等の能力は発揮できません。正確性、柔軟性、そして一番皆さんが感じるスピード感は、どうしてもオペレーターが駆るフォークリフトに劣ってしまいます。
しかしながら、AGFには、「人間と違って休憩が不要」「規定動作内であれば、人間よりもむしろ正確で安全性が高い」「人件費よりも安い」、そして人手不足を解消できるという大きなメリットがあります。
こういったメリット・デメリットは、運用や庫内業務全体の見直しといったプロセスエンジニアリングの文脈で解決、あるいはより良い結果を期待できるものです。このポイントを明示的・暗示的に訴求できているブースには、きちんと来場者が集まっていたと、筆者は感じました。
昨今、新たな物流ソリューションがたくさん登場しています。しかし、どうしても私たちは新しいモノには厳しく、逆に旧来のモノ(あるいはプロセス)に対して高い評価を下しがちです。
こういった人間心理に由来する、新たなソリューションに対する疑念や課題感に対し、ソリューションそのものが回答を提供しているブースは、来場者が集まっていました。
自動倉庫系で言えば、例えばラピュタASRS(ラピュタロボティクス)やAirRob(プラスオートメーション)です。
自動倉庫導入における最大のネックは、やはり価格です。これまでの自動倉庫は、数千万円から億円単位の投資を必要としました。自動倉庫導入を検討するユーザーは、巨額の初期投資に見合うだけの効果が出せるのかどうか、まず悩んでしまうわけです。
しかし、ラピュタロボティクス、プラスオートメーションの2社は、サブスクリプションで物流ロボットを提供する「RaaS(Robotics as a Service)」というビジネスモデルを提供することで、自動倉庫導入時に立ちはだかる「初期投資と投資対効果(ROI)」をクリアするハードルを、既に下げています。そして、このことは来場者もきちんと分かっています。
そのうえで、2社が国際物流総合展に目玉に持ってきたのが、「自動倉庫=重厚長大」という、これまでの常識を覆す自動倉庫ソリューションという提案でした。
担当者と来場者の話を聞いていると、来場者の思索を反論で消耗させるのではなく、「ウチの倉庫にマッチするのか?」「ウチだったら、どういう使い方ができるのか?」という、運用フェイズの考察に誘導することができていたことに、とても感心しました。
つまり、それだけ説得力のあるソリューションを創り上げることができたということです。
自動倉庫を例に挙げましたが、今回の国際物流総合展では、他ジャンルでも、来場者の「本当に使える物流DXが欲しい」という意欲に応えられるだけのソリューションが多数出展されており、見ごたえがありました。
少し話がズレます。
率直に言えば物流DXという言葉に、よそよそしい感じ、あるいは胡散臭さを感じている人もいることでしょう。
筆者は、主たる理由は3つあると考えています。
2018年9月7日に経済産業省が発表したレポート「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」に記されたDXの定義は以下のとおりです。
「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」
(※IDC JAPANのDXに対する定義を、経済産業省が同レポートに転記したもの)
あまりに難解すぎますよ、この定義は...。
当時、筆者は依頼をうけて、この難解なDXの定義を解説するためだけの記事を執筆したことがあるくらいです。
日本国内におけるDXの潮流は、事実上、この経済産業省のDXレポートから始まりました。しかし、こんな難解な定義を多くの人が理解できたとは到底思えません。
結果、DXの本質的な定義は無視されて、特にコンサルティング会社やIT大手を中心に、各々好き放題な解釈が広まりました。
中にはDX本来の目的や意義を貶(おとし)め、「当社のソリューションを導入すれば、DXはバッチリです」といった、単なるデジタル化をDXと言ってはばからない安直なセールスを展開する会社も多数登場しました。
DX本来の定義は分からずとも、売り込まれる側(ユーザー側)からすれば、胡散臭さは伝わるものです。結果、ユーザー側に、DXに対する警戒感が生まれ、かつDXをどこか胡散臭いものとする認識が生まれてしまいました。
ユーザー側からすれば、DXに取り組まなければならないというモチベーション、危機感が希薄だったことも課題でした。
経済産業省は、「このままデジタル的な競争力の強化を放置すると、諸外国との差がどんどん開き、年間最大12兆円もの経済損失が発生しますよ」(※いわゆる「2025年の崖」問題)と必死にアピールしたものの、多くの企業にとっては話が大きすぎて他人事にしか聞こえなかったことでしょう。
そんな中、物流業界においては、ようやく物流DXに対するモチベーションが高まりつつあります。
きっかけは、「物流の2024年問題」であり、あるいはその対策として政府が推進する物流革新政策です。
物流革新政策の柱である、改正物流2法(2024年5月公布)、特に物流効率化法では、荷主、物流事業者の双方に対し、罰則を課して強制的に物流改善・革新に取り組ませようとしています。
「『物流の2024年問題』って言われても、ウチにはピンとこないなぁ...」などと悠長に構えていた荷主・物流事業者たちも、政府の本気に重たい腰を上げざるを得ない状況になったのです。
結果、「物流DXって、なんか胡散臭いよね」と様子見をしていた企業も、「いや、そんな悠長なことを行っている場合ではないぞ!」とホンキになり始めています。
例えば、「荷待ち・荷役の2時間以内ルール」はとても分かりやすいです。
現状、物流センター等における荷待ちおよび荷役時間の合計が2時間を超えている荷主は、適切な対策を実施しないと、何かしらのペナルティを課される可能性がとても高いですから。
物流革新政策では、このような明確なルールを次々に打ち出し始めています。結果、荷主・物流事業者双方に危機感が生まれ、物流DXに取り組むモチベーションが形成されつつあります。
国際物流総合展2024に話を戻しましょう。
筆者が、「やはり皆さん、物流DXに対するモチベーションが上がっているんだなぁ」と感じたのは、例えば、ボックスパレットを提供しているブースでした。
集客も多かったのですが、感心したのはブース担当者と来場者の会話の内容です。横で聞いていると、「ウチで取り扱っている◯◯は、これ(※ボックスパレット)、使えますかね?」とか、「当社の庫内オペレーションにマッチするのかな?」といった、より導入に近いレベルでの検討をしている様子を伺うことができました。
今や、手積み・手卸しは悪者扱いされかねない風潮になりつつあります。
したがって、ボックスパレットを採用、手積み・手卸し廃止したうえで、パレチゼーションの推進による荷役の効率化、あるいは「荷待ち・荷役の2時間以内ルール」遵守を検討する荷主も増えつつあるのでしょう。
DX本来の定義を平易に解釈すると、「デジタルのチカラを用いて、ビジネスや業務を改善・革新すること」です。
国際物流総合展2024でも、DX本来の定義から外れている、物流DXとは言い難い展示が、物流DXを名乗っていたケースも見受けられました。
しかし、総じて来場者の方が賢くなっていた気がします。
物流DXというバズワードの引力に影響されることなく、今なすべきことをしっかりと見極めようとしている来場者が増えていたことを、筆者は感じました。
物流DXというバズワードから解き放たれた結果として、本質的な物流DXを志す出展者・来場者が増えているというのは、皮肉ではあります。
しかし、日本の物流産業全体を見れば、これは明るい兆しだと、筆者は心強く感じています。
Pavism代表。「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、執筆活動や、ITを活用した営業支援などを行っている。ビジネス+IT、Merkmal、LOGISTICS TODAY、東洋経済オンライン、プレジデントオンラインなどのWebメディアや、企業のオウンドメディアなどで執筆活動を行う。TV・ラジオへの出演も行っている。
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