「荷待ち・荷役作業等時間の2時間以内ルール」(以下、2時間ルール)に戦々恐々とする荷主企業や物流事業者が増えてきています。
まず、2時間ルールの詳細を把握していないケース。
そして、2時間ルールを守るために、何をしたら良いのかが分からないケース。
さらに、2時間ルール対策の切り札として、「物流革新」政策にも記載されているバース予約システムについて、「いや、何を選んだらいいのかが分からない...」と悩んでしまうケースもあるでしょう。
そもそも、世間では、バース予約システム、トラック予約受付システム、車両入退場管理システムが一緒くたにされているケースも見受けられます。
本稿では、日本一分かりやすい「バース予約システム・トラック予約受付システム・車両入退場管理システムの違い」を目指し、解説いたします。
2時間ルールは、2023年6月2日に政府が発表した「物流革新に向けた政策パッケージ」と同日に発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)に記載されています。
ガイドラインから、該当箇所を転記しましょう。
「荷待ち・荷役作業等時間の2時間以内ルール」( 「物流革新に向けた政策パッケージ」 より)
荷主事業者は、物流事業者に対し、長時間の荷待ちや、運送契約にない運転等以外の荷役作業等をさせてはならない。
荷主事業者は、荷待ち、荷役作業等にかかる時間を計2時間以内とする。その上で、荷待ち、荷役作業等にかかる時間が2時間以内となった、あるいは既に2時間以内となっている荷主事業者は、目標時間を1時間以内と設定しつつ、更なる時間短縮に努める。
また、荷主事業者は、物流事業者が貨物自動車運送事業法等の関係法令及び法令に基づく命令を遵守して事業を遂行することができるよう、必要な配慮をしなければならない。
※注記
荷待ち時間のうち、物流事業者都合による早期到着等は荷主事業者による把握及び削減が困難であるため、荷主事業者においては荷主都合による荷待ち時間を把握することとする。
2時間ルールを遵守するための武器として、「物流革新に向けた政策パッケージ」では、「即効性のある設備投資の促進」の例として、「自動化・機械化」「フォークリフト導入」とともに、バース予約システムを名指ししています。
ちなみに、「物流革新に向けた政策パッケージでは、バース予約システムについて、以下のように説明しています。
「『バース予約システム』+『受付システム』でトラックバースの受付・管理を電子化することにより、効率的に作業を行えるシステム」
今後、2時間ルールを守れず、長時間の荷待ちや荷役作業を発生させてしまう工場・物流センター・小売店などは、トラックGメンや公正取引委員会などの摘発対象となり、社名公表等のペナルティを受けてしまう懸念があります。
現状は、待機・荷役時間を事実上把握できていないケースが大半ではないでしょうか。
「事実上」としたのは、手書きの受付簿はあるものの、以下のような理由で結果的に把握できていないケースもあるからです。
ちなみに、2時間ルール遵守のために、待機・荷役時間をきちんと記録し始めると、それだけで削減効果が生じるケースもあります。
これは、ある種のレコーディングダイエット効果なのでしょう。
現状を把握することによって、現状のムリやムダを排除しようという意識が現場作業員等に生じ、待機・荷役時間の削減が実現するものと考えられます。
待機・荷役時間の実態が判明すれば、やれることはたくさんあります。例を挙げます。
入出荷の現場担当者からすれば、待機・荷役時間を見える化したことで、改善への気づきを得ることが間々あります。
これだけでも、十分すぎる効果(「それまで1時間以上掛かっていた待機・荷役時間が10~15分程度まで削減できた」など)が出るケースも少なくありません。
詳細は後述しますが、「予約システムの導入は、待機・荷役時間の把握による削減効果を見てからにしようか?」という判断もアリです。
システムの種類 | 主な特徴 | 手軽さ (導入コスト) |
自動化・省人化 の度合い |
|
---|---|---|---|---|
バース予約システム | バースを予約することで、入出荷を行う時間枠を予約できるシステム | ◯ | △ | |
トラック予約 受付システム |
バース予約を含んだ入出庫に関する包括的な業務を管理するシステム | ◯ | △ | |
車両入退場管理システム | 車番認識 | カメラで車両ナンバーを読み取ることによって、工場・物流センターなどの敷地内を出入りする車両を記録するシステム | △ | ◯ |
ETC 認識 |
ETC車載器の電波信号(固有ID)を読み取り、入退場する車両を記録するシステム | △ | ◎ |
各システムについて、もう少し深堀りしてご説明します。
本来は、複数のバースを備える工場・物流センターなどで、バース単位での利用予約を行うシステムを指します。
ただし、バース予約システムとトラック予約受付システムが混同されているケースも見受けられます。
むしろ、「物流革新」政策でも同じものとして表現されていることを考えると、「バース予約システムとトラック予約受付システムって同じでしょ?」と思っている方のほうが多いかもしれませんね。
なお、本来のバース予約システムでは、待機・荷役時間の把握ができないシステムもあることは、付記しておきましょう。予約時間によって、おおよその待機・荷役時間の起点は把握できても、終了時間の記録機能がないためです。
主な機能は以下のとおりです。
しかし実際にトラック予約受付システムを導入している現場の中には、これらの機能をすべて使っていないケースも多いです。
例えば、「そもそも複数のバースが存在しない」「接車するバースは、その都度作業員が指示する」という現場もありますし、受付だけを行い、予約機能を使っていないという現場もあります。
理由は、すべての機能をフル活用しなくとも、待機・荷役時間の削減が実現できたのであれば、それでOKだからです。
車両入退場管理システムには、車番認識方式によるもの、ETC認識方式によるもの、そしてその両方を使うものの3種があります。
車両入退場管理システムは、工場・物流センターを出入りする車両を記録するシステムですが、車番認識方式の車両入退場システムでは、出入り口に設置したカメラで入退場する車両のナンバーを読み取り記録します。
最近では、商業施設の駐車場などでも導入され始めていますね。
車番認識方式の車両入退場管理システムでは、カメラによって車両認識を行いますが、ETC認識方式の車両入退場管理システムでは、ETCによって車両認識を行います。
現在、ETCは広く普及しています。
国土交通省によると、2024年1月時点での高速道路におけるETC利用率は94.7%。トラックなどの商用車に限れば、ETC導入率はさらに上がるでしょう。
ETC機器が発する固有の電波信号(固有ID)を車両情報と紐づけて、車両の認識、車両の入退場管理を行うのが、ETC認識による車両入退場管理システムです。
車番認識方式の車両入退場システムでは、例えばナンバーに雪が付着していたり、雨や霧、夜間などの気象条件下では、認識率が下がります。しかし、ETC認識方式であれば、安定して車両の入退場を記録することができます。
ただし、ETC認識方式にも課題はあります。
ETC機器固有のIDを、車両オーナー(=運送会社)側が把握していることはまずありません。
したがって、ETC認識方式の車両入退場管理システムを運用する工場・物流センター等では、初めて入場する車両におけるETC機器の電波信号(固有ID)を、車両ナンバーなどの車両情報と紐づける作業が必須となります。
この手間を軽減できるのが、車番認識方式とETC認識方式を併用する方法です。
初めての車両が入場したときに、ETC機器の電波信号(固有ID)と、カメラによって読み取った車両番号を自動的に紐づけて記録、2回目以降の入退場で活用します。
なお、車番認識方式、ETC認識方式とも、入退場する車両を運行する運送会社などをちゃんと把握するためには、ナンバー、あるいはETC車載器の固有IDを「◯◯運送の◯号車」のように紐づける作業が必要となります。
さらに、これは車番認識方式、ETC認識方式に限らず、バース予約システム、トラック予約受付システムにも共通することなのですが、入退場する車両を入出庫作業と関連付けるためには、そのトラックが輸配送する貨物と紐づけるための作業や、あるいはWMS(倉庫管理システム)、WCS(倉庫運用管理システム)、WES(倉庫制御システム)などとの連携が必要になります。
まず、バース予約システムについてですが、2時間ルール遵守のため、待機・荷役時間の削減を図ることを目的とするのであれば、退場時間(作業終了時間)が分からないバース予約システムだけでは、求める役目を果たすことができません。
トラック予約受付システムは、車番認識方式・ETC認識方式の車両入退場システムと違い、ハードウェアの導入は最小限に抑えられます(必要なのは受付用のタブレット端末くらいです)。
そのため、導入コストは抑えられるのですが、一方で利用者が操作し、予約、受付、退場などを記録する必要があります。
一般論ではありますが、物流従事者の中にはITアレルギーを持つ人が少なくありません。
PCから予約を強いられる運送会社の配車担当者や、スマートフォンから予約・受付などの操作を強いられるドライバーの中には、拒否反応を示す方もいます。
トラック予約受付システムの中には、スマホアプリのインストールを強いるものもありますので、「個人所有のスマホにインストールしたくない!」というドライバーがいるのは、致し方ないでしょう。
また、トラック予約受付システムにおいて、把握できる時間は、基本的に受付から荷役終了の時間までです。荷役の終了は、工場・物流センター側の作業員が入力することになります。
つまり場内を退出した時間は把握できないため、例えば荷役終了後、場内で待機されてしまったり、あるいは荷役終了後の貨物伝票受け渡し等で時間を要する工場・物流センターでは、待機・荷役時間の実態把握ができないこともあります。
場内への入退出時間を記録することを最優先とするのであれば、車両入退場システム(車番認識方式・ETC認識方式)のほうが適切で確実です。
人の手をほとんど介することなく、自動的に記録していくことができるのですから。
まず大切なのは、あなたの実情や、あなたが取り組む改善活動の進捗に合わせて、必要なシステム構成が変わる可能性があることを、あらかじめ理解し、あるいは覚悟しておくことです。
例えば、大手ECプラットフォーマーのトラック予約受付システムにおける運用ケースでは、運送会社側がバース予約を取ることができず、難儀しているという話も聞きます。予約が常に一杯だからです。
運送会社としては、「だったら集荷(あるいは入荷)に行きませんよ」とは言えません。
知己の配車担当者は、「だから、比較的空きのある深夜帯を予約したり、あるいはあらかじめバース予約枠を確保している路線便事業者に荷物を積み替えないと入庫できないんだよ...」と嘆いていましたが。
これでは、見かけ上は待機・荷役時間の削減ができているのかもしれませんが、本来の目的である運送会社・ドライバーの負担軽減は実現できていません。
この大手ECプラットフォーマーでも、トラック予約受付システムを導入した当初は、予約もスムーズに取れて、ドライバーや運送会社からの評判も良かったと聞きます。
物流センターの稼働率が上がったことでこのような課題が生じたのでしょう。
だとすれば、今、この大手プラットフォーマーがやるべきことは、バースの増設や、入出荷業務の効率化によるスピードアップなどでしょう。そのためには、トラック予約受付システムが、WMSやWCSといった、他システムと連携することも必要になってきます。
実際のところ、トラック予約受付システムは機能が豊富なので、実際には使い切れていないユーザーも多いです。
逆に言うと、(前述のとおり)すべての機能を使いこなさなければ効果が得られないというものでもありません。また、ユーザーの状況によっては、すべての機能をフル活用したとしても、効果(待機・荷役時間の削減や、入出荷業務の効率化など)が十分にならないケースもあります。
一方、車両入退場システム(車番認識方式・ETC認識方式)は、待機・荷役時間を把握可能で、かつ運送会社・ドライバーへの負担は最小限に抑えられます。しかし、入出荷業務、あるいは仕分け業務や荷揃え業務などの庫内業務全体の生産性向上・省人化を目指すのであれば、トラック予約受付システムやWMS、WCSなどと連携することが必須となります。
「バース予約システム・トラック予約受付システム・車両入退場管理システムの選び方」というと、システムだけに目がいってしまう方も多いと思います。
でも実のところ、他システムとの連携やカスタマイズの可否など、そのシステムの拡張性や、システムベンダーそのものの体制・体質もとても大事です。
改善活動って終わりがないです。
現場やマーケットは常に進化しますし、また進化させなければなりません。
実際、「トラック予約受付システムを導入し、待機・荷役時間は削減できたけど、そのトレードオフとして入出荷業務が大変になっちゃって...」という現場もありますから。
ひとつの課題解決が次の課題を生み出すケースもあれば、ある課題を解決した結果、別の課題が顕在化するケースもあります。
また、(バース予約システム・トラック予約受付システム・車両入退場管理システムに限った話ではありませんが)改善の進化に合わせて、「システムのリプレイス」「他システムとの連携」などが必要になるケースもあります。
他社システムと連携ができないシステムは危ういですよ。
また、改善活動に伴走してくれないシステムベンダーは、むしろ業務改善・変革を行う上では害になるケースすらあります。
システム選びは大切です。
だけどもっと大切なのは、あなたの改善活動に伴走してくれるシステムベンダーを選ぶことです。
目先の痛みにとらわれることなく、ぜひ広い視野でバース予約システム・トラック予約受付システム・車両入退場管理システムの選択・導入を考えてくださいね!
Pavism代表。「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、執筆活動や、ITを活用した営業支援などを行っている。ビジネス+IT、Merkmal、LOGISTICS TODAY、東洋経済オンライン、プレジデントオンラインなどのWebメディアや、企業のオウンドメディアなどで執筆活動を行う。TV・ラジオへの出演も行っている。
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