昨今、社員が持ち歩くスマートフォンでの利用を前提とした業務用アプリケーションがどんどん増えています。
代表的なアプリケーションを挙げましょう。
その他にも、スケジュール管理とメールなどを統合したグループウェア各社は、皆モバイル版アプリケーションを提供しています。
そして、この潮流は、トラックドライバーにも押し寄せています。
その他にも、ドライブレコーダーの代わりにスマートフォンのカメラ機能を使うアプリケーションや、スマートフォンの加速度センサーを利用して運転状況を記録するアプリケーション、あるいは体活動計などと連動し、ドライバーの健康状態をモニタリングするアプリケーションなどもあります。
ここで課題になってくるのが、これら業務用アプリケーションを、誰のスマートフォンにインストールさせるかという点です。
結論から言えば、会社から業務用スマートフォンを支給し、業務用アプリケーションを利用させるのが筋ではあります。しかし、特に中小企業では、懐事情などから、従業員の個人所有スマートフォンに業務用アプリケーションをインストールさせ、利用させてしまうケースもあるでしょう。
本稿前半では、トラックドライバーの事情にフォーカスし、業務用アプリケーションのあり方と、後半ではソリューションベンダーがアプリケーション開発を行う際に注意すべきことを考えていきましょう。
会社が従業員に対し、業務利用のための携帯電話・スマートフォンを支給せず、個人所有のスマートフォンなどを業務利用させることのリスクをまとめました。
ただし、従業員に対し、携帯電話・スマートフォンを貸与することで生じる、会社側のリスクもあります。
こういった会社側が被るリスクを回避するため、MDM(Mobile Device Management)やMAM(Mobile Application Management)といったツールをあらかじめスマートフォンにインストールすることで、会社側は、「従業員がどのようにスマートフォンを利用しているのか?」、あるいは「業務用スマートフォンを、私用で利用していないか?」といったことを監視し、また不必要なアプリケーションの利用を制御・管理する必要があります。
実は筆者、あるクライアントから依頼を受け、従業員(トラックドライバー)が利用する業務用スマートフォンのMDM運用を受託しています。その経験から言うと、MDM・MAMといったツールの管理と運用には、それなりに手間が掛かりますが、「仕事用のスマホで、そんな使い方するの!?」という従業員が実際に見つかったこともあります。したがって、やはりMDM・MAMといった管理ツールを用意することは、もはや業務用スマートフォンを従業員に貸与するうえでは必須であると考えています。
とは言え、トラックドライバーに対し、業務用アプリケーションの利用を指示すると、さまざまな理由により、嫌がられることがあります。
ドライバーの中には、ITリテラシーが低く、スマートフォンの利用についても不慣れな人がいます。
そのため、いずれのケースにおいても、業務用アプリケーションの利用目的を懇切丁寧に説明し、かつ利用開始レクチャーや、利用開始後のサポートについても手厚く行う必要があります。
一方で、厄介なのは、トラック予約受付システムのような、発荷主・着荷主といったクライアントから要請されて使用する業務用アプリケーションです。こういったアプリケーションに対するサポートは、クライアント側が行うのが筋なのですが、中には「この間も同じこと、説明しましたよね!」というふうに、つっけんどんな対応をするクライアントがいることも事実です。
クライアントから使用要請を受けたアプリケーションについても、運送会社側がその使い方をよく学んで、クライアントに代わってフォローを行うことも、場合によっては必要になるでしょう。
とは言え、「文字が小さすぎて読めない」といったユーザビリティ上の課題は、業務用アプリケーションを開発するソリューションベンダーの責任であり論外です。
しかし、デザインを優先するなど「制作者のエゴイズム」をゴリ押しし、例えば「ボタンを画像で作ってしまう」「画面を拡大縮小するピンチ操作を無効にする」といったアプリケーションを開発してしまうベンダー、実際にいるんですよね...
これ以外にも、ソリューションベンダーに責任がある、不適切なアプリケーション開発・仕様の例を挙げましょう。
特に中小運送会社においては、(アプリケーション仕様ではなく)サービス設計が、業務用スマートフォンの支給を躊躇(ちゅうちょ)させてしまうケースもあります。例えば、料金体系の設計です。
このようなアプリケーションだと、中小運送会社の経営者の中には、「ユーザー単位の利用料金がこんなに高額なのか...。そうなると、スマートフォンの月額基本料や通信費などを会社が負担するのは難しいよな」と考え、ドライバー個人所有のスマホで業務用アプリケーションを使用させようと考える人も出てくるでしょうね。
これは筆者の私見でもあり、願望でもありますが、特に中小運送会社が顧客となるケースが多い、トラック運送業向けのアプリケーションにおいては、「中小企業でも導入しやすい料金体系」を目指してほしいものです。
ベンダーの方々と話していると、「基本料金を高くして、アカウント単位課金額を減額すると、かえって導入への敷居が高くなってしまうんですよ」と懸念する方がいるのですが、だったら、基本料金にもアカウント数に応じたラダーを設ければ良いだけです。
どのみち、ユーザー数が多くなる大手事業者に対しては、大口割引を設けることが一般的なので、大口顧客に対しては基本料金を高くする代わりに、アカウント単位課金額を安くする料金設計を行うことで、この懸念には対処できるはずです。
ただし、それでもドライバー個人所有のスマートフォンへのアプリケーション導入を促したいソリューションベンダーがいるのであれば、せめてブラウザアプリケーションを用意するべきです。インストール型アプリケーションに比べれば、ブラウザアプリケーションの方がドライバーへの負担は小さいですし、もしガラケーを利用しているドライバーがいたとしても、対応できる可能性が高まりますから。
先日、ある大手物流システム開発会社を取材する機会に恵まれました。
このとき、こんな発言がありました。
「今どき、すべての機能を自社開発しようという発想が時代遅れなんですよ。むしろ、自社で開発するよりも、より優れた機能・性能を提供しているソリューションがあるのであれば、協業し、システム連携を図ったほうがソリューションの価値も上がるはずです」
「素晴らしいですね」と称賛した筆者に、この担当者はこのように言葉を続けました。
「ソリューションベンダーは、ユーザー価値の向上に努力すべきです。ベンダー側のエゴイズムをユーザーに強いることは論外で、その意味では『自社開発にこだわりたい』というのも、ベンダー側のエゴイズムなんですよ」
ただし、そのためには、他社のシステムと連携できる仕様となっていることが必須となります。当然、物流情報標準ガイドラインに準拠することが前提となります。
ドライバー向けアプリケーションに限らず、あらゆるアプリケーションやソリューションは、手段であって目的ではありません。
したがって、ソリューションやアプリケーションの最適化は、導入企業にとっては部分最適でしかないのですが、この理解が不足していているソリューションベンダーは少なくありません。
例えば、トラック予約受付システムは、WMS、WES、WCS、受発注管理システムなどとの連携がなければ、本来目指すべき物流センター業務の全体最適は実現できないはずです。
ソリューションベンダーは、自社ソリューションだけの最適化を目指すような狭い視野ではなく、関連する業務プロセス全体を意識し、全体最適化に貢献できるようなソリューション開発、あるいはビジネス設計を行うべきでしょう。
本来、ソリューション(solution)とは、解決や解答を意味する言葉です。
本稿のように、今やシステムやアプリケーションと同義として使われることが多いソリューションという言葉ですが、ユーザーが抱える、あるいは業界が抱える課題解決に貢献するという本来の目的を、ベンダー側は見失わないようにしたいものです。
Pavism代表。「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、執筆活動や、ITを活用した営業支援などを行っている。ビジネス+IT、Merkmal、LOGISTICS TODAY、東洋経済オンライン、プレジデントオンラインなどのWebメディアや、企業のオウンドメディアなどで執筆活動を行う。TV・ラジオへの出演も行っている。
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