GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System:「海上における遭難および安全に関する世界的な制度」)は、船舶がどの海域で遭難したとしても、陸上の救助機関や付近を航行する船舶が遭難警報を確実に受信し、陸上と海上が一体となって通信網の中で効果的に救助活動を可能にする無線通信システムです。
国際海事機関(IMO)推進により1992年2月から運用が導入され、海上における遭難および人命の安全に関する通信のみならず、船舶の効率的な運行管理、また公衆通信などの確立に重要な役割を果たしています。
2024年からは、GMDSSの近年化に伴い、イリジウム衛星システムがGMDSSの衛星システムとして新たに認証され、インマルサットシステム同様に船舶の遭難通信などを行う船舶地球局設備として利用可能になるなど、見直しが行われました。
船舶から送信された避難警報は、DSC(デジタル選択呼出)を使用するVHF(超短波帯)、MF(中波帯)またはHF(短波帯)や無線電話により、陸上に設置した海岸局、海岸地球局、地域利用設備(LUT:ローカルユーザー端末)に受信され、業務管理センターMCC(海上保安庁)等を経由して救助調整本部RCC(管区海上保安部)へ通報されます。救助調整本部は、この情報を各捜索救助機関および遭難現場付近を航行する全ての船舶に中継し、迅速かつ効率的な捜索救助活動を実施します。
遭難通報の伝達方法は、地上通信ルート経由と衛星通信ルート経由の2種類があります。地上通信(地上波を利用する通信)には、MF帯、HF帯、VHF帯を使用する無線通信があり、中波無線電話、短波無線電話、VHF無線電話(国際VHF・双方向無線電話)、DSC(デジタル選択呼出装置)、ナブテックス(NAVTEX)およびSART(レーダートランスポンダ)などの装置が用いられます。衛星通信では、静止衛星のインマルサットやRMSS船舶地球局と極軌道周回衛星であるコスパス・サーサット(COSPAS-SARSAr)が使用され、船舶から陸上向けおよび陸上から船舶向けの双方に利用されます。
GMDSSは、船舶および航行区域の区分に応じて、送信設備および受信設備の機器、遭難自動通報設備の機器、船舶の航行の安全に関する情報を受信するための機器などが、総務省令で定められています。
海域 | 海域の範囲 |
---|---|
A1海域 | DSCを使用して国際VHF海岸局と通信が行える海域(沿岸から20~30海里) |
A2海域 | A1海域を除き、DSCを使用してMF海岸局と通信が行える海域(沿岸から約150海里程度) |
A3海域 | A1およびA2海域を除き、認証された移動衛星業務(RMSS)を利用して通信が行える海域(北緯70度から南緯70度までの海域) |
A4海域 | A1、A2およびA3海域を除いた海域(A3海域およびA4海域の区域は、船舶が選択した移動衛星業務に用いる機器によって異なる) |
GMDSSを装備しなければならない船舶は、国際航海に従事する総トン数300トン以上※の貨物船および全ての旅客船です。日本では、船舶の安全航行をより一層高めるために、沿岸を航行する一部の船舶を除き、総トン数20トン以上の船舶に対してもGMDSS設備の装備が求められています。ただし、船体の構造やその他の事情によりGMDSS設備の装備が困難な場合は、規定どおりの機器を装備しなくてもよい場合があります。なお、基本的な設備要件については、下表のとおりです。
※ 海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)による。
無線設備 | A1 | A2 | A3 | A4 | 該当するフルノの製品 | |
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VHF無線設備 | DSC/DSC聴守受信機(CH16および航行海域で要求される緊急・安全チャネルの受信) | ○ | ○ | ○ | ○ | FM-8900S |
DSC(二重化設備) | ○※7 | ○※7 | ○ | ○ | FM-8900S | |
MF無線設備 | DSC/DSC聴守受信機※6(航行海域で要求される緊急・安全チャネルの受信) | ○ | ○ | FS-1575/2575 | ||
DSC(二重化設備)※6 | ○※7 | FS-1575/2575 | ||||
MF/HF無線設備 | DSC/DSC聴守受信機※6(航行海域で要求される緊急・安全チャネルの受信) | ○ | FS-1575/2575 | |||
DSC(二重化設備)※6 | ○※4 | ○ | FS-1575/2575 | |||
RMSS船舶地球局 | RMSS(認証された移動衛星業務) | ○ | ||||
DSC(二重化設備) | ○※4※5 | |||||
海上安全情報(MSI)および捜索救助(SAR)関連情報受信機※3 | インマルサットEGC(高機能グループ呼出受信機) | ○ | ○ | ○ | ○ | FELCOM18 |
ナブテックス受信機 | NX-700A/B、NX-900 | |||||
NBDP(狭帯域直接印刷電信装置) | IB-585 | |||||
浮揚型EPIRB | ○ | ○ | ○ | ○ | Tron 60 AIS | |
レーダーSARTまたはAIS-SART | ○※1 | ○※1 | ○※1 | ○※1 | TBR-610 | |
ポータブルGMDSS VHF(生存艇用双方向VHF無線電話) | ○※2 | ○※2 | ○※2 | ○※2 | HT-649 | |
関連する全ての無線機器への位置情報自動更新 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
「遭難パネル」および「遭難アラームパネル」(旅客船のみ) | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
船舶航空機間双方向無線電話(旅客船のみ) | ○ | ○ | ○ | ○ |
※1 300gt以上500gt未満の貨物船は1台、500gt以上の貨物船および旅客船は2台。
※2 300gt以上500gt未満の貨物船は2台、500gt以上の貨物船および旅客船は3台。
※3 船舶地球局とEGC受信機を組み合わせた又は個別の設備。
※4 A3海域では、「RMSS船舶地球局(主RMSSと同等以上のカバレッジ)」又は「MF/HF電話設備」を選択(1.6.3項参照)。
※5 1.6.3.2項参照。
※6 MF/HF無線設備はMF無線設備の代替とすることができる。
※7 1.6.3.1項参照。
超短波帯の無線設備で、近距離の通信に使用されます。従来からの無線電話に加え、船舶の航行上必要な通信および遭難通報などの送受信を行うため、DSCが装備されます。
FM-8900S 国際VHF無線電話装置GMDSS全海域で使用できる国際VHF無線電話装置 |
短波帯の無線設備で、遠距離の通信に装備されます。DSC、無線電話が使用され、それぞれの遭難、緊急および安全通信用の周波数は、4 MHz、6 MHz、8MHz、12MHzおよび16MHzの電波が使用されます。
FS-1575/2575 MF/HF無線電話装置DSCおよびDSC聴守受信機内蔵のMF/HF無線電話装置 |
遭難通報および安全呼出のDSC用電波(超短波帯、中短波帯、短波帯)を自動的に受信するもので、通常デジタルセルコールと共に伝えられています。遭難通信または緊急通信を受信した時は、可聴音または可視の警報を発し、その内容が印字されます。
IB-585 NBDP ターミナルユニット(狭帯域直接印刷電信装置)MF/FM無線電話装置との接続で、テレックス通信を可能にするターミナルユニット |
ナブテックス受信機は、海岸局から400 海里内の海域を航行する船舶に向けて放送される海上安全情報(航行警報、緊急情報、気象海象警報等)を自動的に受信し、内蔵のプリンタで印字する機器で、 国際ナブテックスと日本語ナブテックスがあります。
NX-700A/B、NX-900 ナブテックス受信機国際ナブテックス周波数とローカル周波数を同時受信、新基準適合の国際ナブテックス受信機 |
ポータブルGMDSS VHFは、遭難時に遭難船舶または他の船舶と生存艇との間、もしくは救助船舶相互間または生存艇相互間の現場通信に使用します。
HT-649 双方向無線電話GMDSS対応 高品質VHFトランシーバー |
SART は、救助船のレーダーまたは航空機の捜索レーダーから発射された9GHz帯の電波を受け、それに応答して自動的に同じ9GHz帯の電波を発射します。これを捜索側の救助船または航空機のレーダー表示器上に12点のドットが表示され遭難船または生存艇の位置が確認できるものです。
TBR-610 レーダートランスポンダGMDSS対応の捜索救助用レーダートランスポンダ |
インマルサットEGC受信機は、陸上から送られる海上安全に関するメッセージすなわちSAFETYNETと言われる海上安全情報(NAVAREA、遭難通報、暴風警報、気象情報等)を受信するものです。通常、インマルサットC設備に内蔵されています。
FELCOM18 インマルサットC 船舶地球局インマルサット-C/インマルサット MINI-C サービス向けターミナル |
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Tron 60 AIS 衛星非常用位置指示無線標識改正性能基準に適合した非常用位置指示無線標識 |
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RC-1800F2 GMDSS ラックタイプ無線通信装置GMDSS搭載要件に合致した一体型無線通信システム |