事例
電波望遠鏡の時刻同期:「系外惑星の電波を観測したい」
(東北大学様)

  • タイミング市場

たくさんの電波望遠鏡をたばねて
ひとつの大きな望遠鏡を構成する

東北大学大学院理学研究科・惑星プラズマ・大気研究センターの三澤浩昭准教授(2024年11月取材時)の研究対象は太陽と木星。太陽でフレアが発生するときや木星でオーロラが輝くとき、同時に放射される電波を地上から観測することで太陽や木星の活動そのものや電波が伝搬してくる宇宙空間の研究をされています。電波の観測には大規模な電波望遠鏡を使用し、複数の観測所で受信したデータを時刻同期して解析する必要があることから、高精度な1PPSと10MHzを手軽に得られるフィールド・タイムシンク・ジェネレーター「型式:TB-1」を試用していただきました。

時刻同期をおこなう背景

遠い宇宙からくる電波を観測するために「複数の電波望遠鏡を束ねて仮想的に大きな望遠鏡を構成する」仕組みが取られます。この方式を「電波干渉計」と呼びます。電波望遠鏡が1台の場合、宇宙の一点一点を観測して電波強度を測定しますが、1つの視野の中でどこから電波が来ているのかは分かりません。これが電波望遠鏡を1台だけ使用する際の課題です。
一方、複数の電波望遠鏡を使って同じ天体を見る場合、それぞれの電波望遠鏡の設置位置の違いから受信する電波の到達時間に微妙なズレが生じます。このズレを正確に測定することで、電波の発生源を特定することができます。


参考文献:「電波干渉計のしくみ」 国立天文台, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
https://alma-telescope.jp/assets/uploads/2024/06/37ab9d1a2e3c1f511792115312216277.pdf

本研究では複数の電波望遠鏡間の時刻同期と周波数同期が非常に重要です。東北大学の観測所は宮城県と福島県の2ヶ所にあって距離が数十キロメートル離れています。また、国内外の研究機関と連携して観測をおこなうこともあり、その場合は数百~数千キロ離れた場所にある望遠鏡と時刻同期しなければなりません。高安定な時刻と周波数の基準がなければ、観測データの信頼性がそこなわれ正確な解析ができなくなるのです。
複数地点の時刻を正確に同期させるためには、水素メーザーのような原子時計を各観測地点に導入する必要があります。しかし水素メーザーは非常に高価なため手軽には買えません。また、太陽や木星が放射する電波は数GHz程度までの比較的低い周波数であり、原子時計が備えるほどの高安定でなくとも有意な電波干渉観測が可能です。そこでタイムシンク・ジェネレーターを使ってみることにしました。

装置の構成


離れた場所でも、GNSSの時刻ソースを活用することで高精度に時刻同期

三澤先生の観測装置はスーパーへテロダイン受信機とデータサンプラー、タイムシンク・ジェネレーターで構成されます。
宇宙から到来した電波はアンテナで受信された後、スーパーへテロダイン受信機により扱いやすい周波数に変換され、データサンプラーでデジタル変換後、PCに取り込まれます。タイムシンク・ジェネレーターの10MHz出力は受信した電波の位相を保持するために、1PPS出力は電波を受信したタイミングを知るために使われます。

タイムシンク・ジェネレーターを導入し、昼間は太陽の観測、夜は木星の観測を続けてきました。そんななか、従来使用してきたタイムシンク・ジェネレーターが製造中止になってしまいました。代わりになる製品を探していたところ、同じく宇宙電波の観測研究を手掛ける名古屋大学・宇宙地球環境研究所の岩井一正先生から「TB-1」をお借りしたそうです。
三澤先生の望遠鏡は太陽と木星にくわえて、さらに遠くの天体にも向いています。「太陽系以外の他の恒星系にも木星型の惑星があり、木星と同様にオーロラが発生しているはず。その電波を捉えたい」と三澤先生は意気込みます。

参考文献:「低周波 太陽・惑星 電波観測に向けた東北⼤の準備状況」
https://pparc.tohoku.ac.jp/sympo/sps/proc/2024/SPS2024_P-43_Misawa.pdf


電波望遠鏡のパラボラ反射面の真下にある受信機室の様子
コンテナハウスの中に金網製のシールド室を入れて、受信機室としている。
この部屋には受信機やデータ収集機器、それらの制御用PC等が設置されている。


電波望遠鏡から50mほど離れた観測棟内にある観測制御室の様子
この部屋も金属板製のシールド室になっており、観測制御用PCや通信装置等が設置されている。
それらの装置の1つにタイムシンクジェネレーターがあり、その出力信号はケーブルを介して受信機室へ送られている。

TB-1への期待

TB-1に対し、三澤先生からこんなご要望をいただきました。
「水素メーザーやセシウム発振器は高額なため、今回はじめてTB-1を試用しました。TB-1の良い点は、設置後すぐに使えるところです。起動して短時間で高い安定度に達し信号を出力できる点が特に素晴らしいと感じました。もっと磨いてほしい点は、アラン分散の性能です。私たちの研究では周波数の安定度をもっとも重視しています。ただ電波天文学特有の要望であり、一般的な使用環境に当てはめた場合はオーバースペックになってしまうかもしれないですね(笑)」


フィールド・タイムシンク・ジェネレーター「TB-1」

古野電気の担当者コメント

三澤様、この度は貴重なお話を誠にありがとうございました。広がり続ける宇宙のお話であるにも関わらず、私にとっては身近なGNSS受信機を使用しながら観測されているとのこと、神秘的に感じると同時に大変興味深いお話でした。
またTB-1へのご要望をいただきありがとうございます。次の商品企画に活かしたいと思います。
重ねてになりますが、インタビューに応じてくださり、本当にありがとうございました。

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